


The Walker Brothers

アメリカ出身のスコット・ウォーカー(ノエル・スコット・エンゲル)は60年代を代表する時代の象徴としてビートルズ同様に世界中にファンを獲得したアイドルだった。
彼は幼少の頃から歌が得意で13歳でレコードデビュー。当時はほとんど話題に登らなかったが、人気を得て以降に「Fresh World Of Scott Walker」というアルバムがリリースされた。そこではまだまだ子供の音域での歌唱を聞くことができる。
その後、20代に入り1964年にジョン、ゲイリーと3人組のバンド「ウォーカー・ブラザース」が結成される。ブラザースと言っても実際は全くの他人同士。
この時代は何と言ってもビートルズの存在があまりにも大きく彼らもイギリスに活動拠点を移す。(ジミ・ヘンドリックス同様に彼らも長い間イギリスのミュージシャンだと思われていた)
これが奏功してヒット曲が生まれイギリスで人気が沸騰する。3人共にルックスが良かったからか音楽よりもキャラクターに対する女性ファンの支持が凄くたちまちアイドルグループへと変わっていくがそれは必ずしも彼らの本意ではなかった様だ。
1967年にそんな中、純粋に音楽を愛していたスコットはバンド活動の最中にソロアルバムの制作を始める。特に彼らの人気が高かった日本ではバンドの公演が開催された一方でソロとしてスコットが来日し、人気TV番組に出演したのを何度か観た記憶がある。


女性ファンは音楽よりもルックスに心を奪われる傾向が強いのを証明するかのようにスコットのファーストアルバムはウォーカーブラザースの時の様には売れ行きが伸びなかった。
しかし、その内容は素晴らしいものがあった。彼自身の作曲によるナンバーが3曲収められ、特に「モンタギュー・テラス」というロミオとジュリエットをテーマにした曲は秀逸である。
翌年、2枚目のアルバム「スコット2」がリリースされる。アイドルから脱皮を始めた彼の歌唱力を認める様になった世界中のリスナーたちに向けてこの時期からスコットが愛してやまないフランスのジャック・ブレルの楽曲のカバーが収録される様になる。この試みが結実したのが1969年に世界中でヒットした「行かないで」である。この曲が収録された3作目「スコット3」は私の中での最高傑作アルバムでもある。収録曲の8割がスコット自身の手によるものでその完成度は極めて高く、ビートルズのあの有名な「サージェント・ペパーズ」に匹敵する時代の先取り感を今だに感じ続けているほどである。
1969年にはこのアルバムの他に彼がイギリスで持っていたTV番組でのレコーディングによる「Scott Sings songs from his TV series」もリリースされ、年内ギリギリに「スコット4」も発表された。そのことはすなわち彼にとっては最も活動的で意義深い時期だったと言えるだろう。






1970年に入りこれまで番号順にリリースされてきたアルバムは「'Til The Band Comes In」のタイトルでリリース。レコードA面のプロローグからB面半ばのエピローグまで一つのコンセプトとして作られた。ソロ以来培われてきた彼の音楽世界はこのアルバムを区切りに一つの終焉をみる。
その後70年代は先祖帰りの意識なのかカントリー系の曲やアメリカンポップスのカバーなどを発表。徐々にその存在感が薄くなっていく。80年代に1枚のアルバムを発表するものの既に絶頂の頃の支持は得られなくなった。
90年代以降、映画の音楽担当や実験的なアルバム制作に移行する。世紀が改まった2000年代には「ドリフト」や「ビッシュ・ボッシュ」といった難解な作品を発表。メリケンで牛肉を叩いた音を録音したり不協和音を奏でる荒々しいギター、さらに自己陶酔している様なスコットの歌。バックには何ともいえない恐怖や不安を煽るサウンドが渦巻くどう評価して良いのか分からない作品である。しかし純粋に音楽を楽しむファンにはそれなりの評価を得ているのも事実。彼は常に時代の先端にいたアーティストであった事を思うと、きっと一般人には到達できない高みに行ってしまったのかも知れない。
そして彼は2019年3月に76歳の生涯を閉じた。私にとってスコット・ウォーカーは永遠のアイドルであり今でも時々彼の音楽に救われている。素晴らしい曲とかけがえの無い思い出にただただ感謝・・・・。

