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​● ティグラン・ハマシアン考

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​ ティグラン・ハマシアンはアルメニア出身のジャズ・ピアニスト。彼の出自はwikipediaをご参照ください。​また、深掘りした考察は、音楽ジャーナリストの若林  恵氏の解説に任せる事とし、ここでは単純に彼のサウンドについて語りたいと思います。

 初めて彼の音楽に接したのが8年前に「シャドウ・シアター」という第5作目に当たるアルバムだった。1曲目から何とも表現しようがない不思議な世界が始まり、次々とあらゆる種類のサウンドが渦巻き始めた。特筆すべきはそのリズムへのアプローチの特異さだ。幼少の頃からロックに興味を持って音楽に接していたという話だが、なるほど頷ける。時にはハウス系の粘っこいビートが現れたり、それに対抗するかの様なピアノの低音部で繰り出されるリフとのせめぎ合いなど、それらから生まれる緊張感はこれまでに聴いたことのなかった音楽空間で衝撃を受けたのを覚えている。一方で正統派のジャズインプロビゼーションも聴かれたり、アレニ・アグバビアンの美しいファルセットボイスが奏でるクラシカルテイストな曲など多彩な展開が楽しめた。以降、彼の作品を遡って聴き込む。まだ10代のうちに製作されたデビューアルバム「ワールド。パッション」もリズミカルな曲が多く、時々聴きなれないスケールを用いたメロディーが気になった。これは後々理解できる様になるのだが、彼の母国アルメニアで伝統的に歌われてきた民謡がそのルーツの様だ。

 2作目の「New Era」はトリオ編成での録音で、彼のキャリアの中では最も正統派スタイルのジャズ作品だ。もの悲しくメランコリックなメロディーが美しい「Leaving Paris」は秀作。

 続く「Red Hail」は再びリズムを駆使した彼独特のスタイルに戻り、「Falling」ではインドの口ドラム「コナッコル」も披露する。先の「シャドウ・シアター」後の「Mockroot」までそのスタイルが聴かれる。しかし、「Luys i Luso」ではアルメニア正教会の合唱団と共に5世紀頃の宗教音楽を現代の讃美歌へとアレンジするという崇高な試みにトライ。実際に合唱団を率いて各地でライブも披露した。その後の2作品もアルメニア伝統音楽をベースにした美しい作品群だ。

 「 Call Within」は「シャドウ・シアター」の再来と捉えても良い作品。スタンダードナンバーを集めた「Stand Art」(言い回しがオシャレ)ではジャズファンなら誰でも知っている曲をティグラン的な解釈で聴かせてくれた。

 そして2枚組の大作「The Bird Of A Thousand Voices」ではやはりアルメニアの

古代からの伝統物語「Hazaran Blbul」を元に5年かけて製作した作品。これまでになくシンセサイザーを多用したドラマチックな曲が多い。サウンドはこれまでのティグラン作品の集大成ともいえるもので、もはや「ハマシアニズム」とかいう造語でも作って叫びたくなる様な内容だ。

​ まだまだ若いピアニストだけに、これからどんな世界をファンに魅せてくれるか本当に楽しみだ。

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