




「ドルビーサラウンド」と言う音響技術が映画の世界で使われ始めて久しい現代にあり、今や「イマーシヴ」と呼ばれる前後左右上部から音に包まれる空間づくりが可能になった。
そもそもこのDOLBYは、我々世代にとってはオーディオ時代のテープデッキの「ノイズ・リダクション・システム」を提供する企業として認識されていた。正式名称は「ドルビー・ラボラトリーズ」というアメリカの企業である。長年に亘り培われてきた経験に裏打ちされた技術とノウハウに依り実現されたシステムは発展を加速させ、その後設立されたライバル企業との開発競争の効果により更なる進化を続けている。
1970年代半ばまでは映画の世界に於けるドルビー音響技術はあくまでそれまでのノイズリダクションが主であり、その後に登場するのが「ドルビーステレオ」(音声を光学記録)である。それは「ドルビーデジタル」のスタートであり、0.1chから5.1chまでのデータをデジタル圧縮の技術で様々なメディアに記録させる事に成功する。
初めて「ドルビー・サラウンド」のシステムで公開されたのが1992年の「バットマン・リターンズ」。もちろんその時点でシステムを完全に再現出来たのは都市部の限られた映画館だけだった。
ただ、家庭用ではその前から既にサラウンド再生用のデコーダーが発売されていた。自分は1984年にケンウッド(オーディオメーカーTRIOが母体)が出したサラウンドプロセッサーSC-700を導入してレーザーディスクの「ネバー・エンディング・ストーリー」でドルビー・サラウンドを体験していた。
あまり覚えていないが、確かステレオシステムのアナログ出力からの信号をこのプロセッサーに通してリア用の2本のスピーカーから再生していた様に思う。遠くで鳴り響く雷鳴が後ろから聴こえて興奮したのははっきりと覚えている。
時代は21世紀に入りメディア媒体はビデオに代表される磁気テープからデジタル技術の発達に伴いDVD、さらにはBlu-rayなどのディスクに移行。再生側の音響機器もオーディオ・アンプからAVアンプに変わりその能力も格段に飛躍する。
「ドルビー・サラウンド」もPro Logicから進化し、オブジェクト・オーディオと呼ばれる新たな規格である「Dolby-ATOMOS」まで発展。同レベルの音響企業DTSやTHXなどからも類似フォーマットが次々に登場してシェアを競う状況になる。
「ドルビー・アトモス」に対抗するのがDTSの「Neural-X」でありまた、ヨーロッパからは独自のフォーマット「Auro-3D」も公開される。ただし、これらはあくまで劇場用のシステムがメインであり家庭用にはそれなりのグレードを備えた再生機器が必要になる。同時にそのフォーマットで制作されたソフトが必須となる。
その点ではまだまだ作品数が限られているのが現状だ。
そこで注目したいのが各メーカーのAVアンプに搭載されている様々な擬似サラウンド再生技術だ。メーカーによりオリジナルの音場処理がある。例えばパイオニアのMCACC、ヤマハのYPAOといった独自のシステムは部屋の特性を分析して通常の2chステレオ信号をサラウンドデコーダーと呼ばれる領域で解凍(圧縮されているデータを展開する)して複雑な演算技術を用いて各スピーカーに割り当ててくれる。
それにより単純なステレオ再生にはなかった前後左右の音場を加えた文字通り「サラウンド」(包み込む)の世界が体験できる。




