

ハードボイルドといえば圧倒的に男の世界だろう。古くはダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラー、ミッキー・スピレーン、ロス・マクドナルド・・・・といったビッグネームを思い浮かべる。それぞれの生み出した探偵は、サム・スペード、フィリップ・マーロー、マイク・ハマーそしてリュウ・アーチャー・・・・。性格も手法も理念も違うがいずれも独特の個性的キャラクターとして印象深い存在だ。
近代ではネオ・ハードボイルドの代表としてロバート・B・パーカーのスペンサー、ローレンス・ブロックのマット・スカダーが気に入っている。パーカーのスペンサーといえば特に「初秋」が印象深い。離婚した夫婦の親権をめぐって翻弄される十代の少年を父親がわりに愛情を持って教育するスペンサーの優しさに涙を誘われた。探偵スペンサーには腕っぷしの強い相棒ホークの存在が欠かせない。たまには主人公を食ってしまいそうに活躍することもあった。
一方のマット・スカダーは警察時代の不慮の事故が理由で酒浸りになり退職、断酒の会に出入りしながら私立探偵を続ける訳あり人。酒好きにとっては理解できる断酒の苦しさとそれを克服しながら人間として大きくなっていく過程が涙ものだ。彼もスペンサー同様情の深い男でありつつも法を無視してでも正義を完うしようとする男気を見るにつけ切なくなる。





ハードボイルド本来の冷酷非情でタフなスピレーンの探偵マイク・ハマーがその代表的存在なのに対して、近年の探偵は前述のスペンサーたちの様にタフさとナイーヴさを兼ね備えたキャラクターが多い。なるほど昔の封建的な時代とは違いこの世界にも多様性が入り込む余地が生まれたのかも知れない。とはいえ往年の有名探偵フィリップ・マーローにも完全に非情にはなりきれない優しさ(それが彼の弱さ)があったのも事実だ。
探偵という生業そのものがハードボイルドを必要としているのか。一方で似た職業に「刑事」があるが、探偵の様に行動することは「法」を守る立場上出来ない。所謂「警察もの」も好きでたくさん読んだが、刑事たちにもそれはそれは多くの魅力あるキャラクターがいる。ここではそれには触れないが、リュウ・アーチャー然り、マット・スカダーも警官から転身した探偵。彼らは「法」が壁となって解決できない事件にストレスを抱えて退職、自らが「法」となって正義を完うしようとする。すなわち「刑事もの」の先に「ハードボイルド」がある。
例えは変だが、学生が社会に出て裏を知るのに似た構図か。探偵マイク・ハマー「裁くのは俺だ」という作品が象徴的だろう。

作者の中には複数の探偵を世に送り出した者もいる。ハメットのコンチネンタル・オプ、ロス・マクドナルドのチェスター・ゴードン、ロバート・B・パーカーの女流探偵サニー・ランドル等々、親が夢を託して子供をもうけるようなイメージだろうか。こいつにはこんな信念を、たまには女の子もいいなぁ・・・ってな具合でキャラクターを産み出す作家業はさぞかし楽しかろう。
女流探偵ついでに有名どころとしてサラ・パレツキーが登場させた女探偵 V・I・ウォーショースキーがユニークだ。スコッチウィスキーを好み直情径行型の性格とくればまさしくハードボイルド。男女共同参画の時代ならではの出来事なのか。
と、まあハードボイルドについて御託を並べてきたが要するに何が言いたかったのか、「男」(女探偵の中の男気)には少なからずもどこかに哀愁があり、それが突き動かす冷酷さと非情さに表裏一体の「愛」を感じた時にジーンとくるまさにこの感覚こそがハードボイルドの価値
だって事だ。つまり男は女よりも繊細で弱い生き物であると結論づけたいって訳さ。




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